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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)961号 判決 1963年2月20日

判   決

控訴人

古角留二

右訴訟代理人弁護士

岡本徳

被控訴人

古川熊吉

右訴訟代理人弁護士

江口十四夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録(一)記載の建物の西側一戸の内、同(二)記載の部分、及び、同(三)記載の附属建物を明渡し、かつ、金二七、〇九五円を支払え。

被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、一、二審共被控人の負担とする。この判決は、第二項に限り、金五〇〇、〇〇〇円の担保を供して、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一ないし第三項の同旨の判決、ならびに第二項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は次の通り附加、訂正したほか、原判決事実摘示の通りであるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、

「一、利息制限法第一条第一項は、約定利率が同項所定の利率を超える場合には、その超過部分についての約定を無効とする旨規定しているが、同条第二項において、債務者が右超過部分を任意に支払つたときは、これが返還を請求できないと規定しているのであるから、被控訴人主張の天引利息金一九、〇〇〇円を含む支払利息合計金一〇〇、〇〇〇円の内、右天引利息については法定利率超過部分を元本の弁済に充当すべきであるとしても、その余の利息金八一、〇〇〇円についての法定利率超過部分に対しては、被控訴人にこれが返還請求権がないから元本の弁済に充当すべきものではない。

二、本件天引利息の元金弁済充当に関する被控訴人の計算は、天引額に法定利息を加えた金額を名目元本から差引いており、従つて、元本に充当する金額が重複しており、これは、利息制限法第二条の解釈を誤つたもので、同条の規定によつて計算すると、金三〇〇、〇〇〇円貸付当時の元本は金二九〇、二九〇円となり、又金一〇〇、〇〇〇円貸付当時の元本は金九六、五三〇円となり、右二口の元本合計は金三八六、八二〇円となるべきであるのにかかわらず、被控訴人は前記誤つた元本を基礎にしてその後の利息を計算し、その都度超過部分を元本の支払に充て、その結果をもつて控訴人の請求が過大であるというのであつて不当である。

三、昭和三〇年一〇月二三日附控訴人の被控訴人に対する催告が過大な請求であるとしても、それは貸付当初天引した利息の内、制限利息超過部分を元本の支払に充てることをしなかつたために生じた僅少な元本の差額一三、一八〇円及び制限利息を超えた三ケ月分余の利息金に過ぎないから、これあるがために右催告全部が無効となるものではなく、過大部分に対する催告が無効であつても、適正金額についての催告は有効なるを失わず、被控訴人において右催告を過大なりとするときは、適正金額を提供し、控訴人においてこれが受領を拒絶したとき弁済供託してはじめて遅滞の責を免れることができるものであるところ、被控訴人は控訴人から本件金員を借入れることによつて、訴外関西無尽株式会社から受けるおそれのあつた本件家屋の抵当権の実行を漸く免れることができたが、昭和三〇年八月頃から商売も不振のため本件貸金の利息もこれを支払うことができなくなつたもので、本件催告当時適正金額すら支払う能力がなかつたのである。被控訴人は、右催告当時右訴外会社から金四〇〇、〇〇〇円借入れる契約が成立していたかのように主張しているが、同訴外会社は本件家屋に控訴人の担保権が設定されている限り、被控訴人に融資するようなことは考えられないし、又その事実もなかつたのである。

控訴人は、昭和三〇年一一月被控訴人申立にかかる調停事件の調停手続において、被控訴人に対し、金六〇〇、〇〇〇円支払えば本件家屋を返すと言明したことがあるが、右金額算出の根拠は、控訴人が当時既に支出していた本件家屋敷地の地代約七、〇〇〇円、登記料五〇、〇〇〇円、火災保険料約六、〇〇〇円のほか、昭和二四年度以降の固定資産税、将来支払うべき不動産取得税及び譲渡税、昭和三〇年八月分から同三一年二月までの利息等を元金四〇〇、〇〇〇円に加えて算出したものであつて、控訴人が、本件催告期限までに元金及び同三〇年八月分より同年一一月分までの利息の提供を受ければ、その余の経費は不要であるから、これを受領する意思を有していたことは明かなところである。もつとも、控訴人が本件催告書中に、右元金及び同年八月から一一月分の利息及び延滞損害金、公正証書作成費等を支払うべく記載しているが、これは控訴人に法律的な知識が欠除していたためであり、本来当初の貸金三〇〇、〇〇〇円の代物弁済に供し得る本件家屋を、貸金合計金四〇〇、〇〇〇円の代物弁済としたのであるから、天引ないし制限超過利息を元金の支払に充当したとしても、その差額は後の貸金元金一〇〇、〇〇〇円の差額をもつて補つて余りがあるから、この点からみても、形式上過大催告であるゆえをもつて本件催告全部を無効であるということができない。

四、本件金三〇〇、〇〇〇円の貸金の約定利息を一ケ月金一四、〇〇〇円と訂正する。」と述べ、証拠として、当審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果を援用し、乙第五号証の一、二及び第七号証の成立を認め、同第六号証は不知と述べた。

被控訴代理人

「一、控訴人の訴控訴人に対する本件催告金額は、以下に述べる被控訴人の負担する債務額を超えた過大なものであるから、催告としての効力がない。即ち、被控訴人は、昭和三〇年二月二一日、控訴人から金三〇〇、〇〇〇円を借受けた際、一ケ月分利息として金一四、〇〇〇円を天引されたから、これにつき利息制限法第二条を適用すると、右借受元本額は左記算式により金二七六、二九〇円となる。

300,000円−14,000円=286,000円……受領額

14,000円−286,000円×0.18÷12=9.710円……元本の弁済に充当されるべき超過利息

286,000円−9,710円=276,290円……残存元本額

被控訴人は、更に同年三月二三日、控訴人から金一〇〇、〇〇〇円を借受けた際、一ケ月分利息として金五、〇〇〇円を天引されたから、前同様左記算式により右借受元本額は金九一、四二五円となる。

100,000円−5,000円=95,000…受領額

5,000円−95,000円×0.18÷12=3,575円……元本の弁済に充当されるべき超過利息

95,000円−3,575円=91,425円……残存元本額

従つて、右二口の借受元金合計は金三六七、七一五円となるところ、被控訴人は、同年三月二六日から同年八月一六日までの間に、別紙弁済充当関係計算表(以下単に別表という。)の弁済額欄記載の通り、同年四月ないし七月分、及び、八月分の一部の利息として合計金八六、〇〇〇円を支払つたから、その内本件貸金の制限利率年一割八分(月一分五厘)を超過する部分を、各弁済の都度元金の一部に充当すると、別表被控訴人の主張欄記載の通りの計算により、同年九月現在における借受残元金は金三〇七、二四四円、又同月二一日以後の制限利息(月一分五厘)は一ケ月金四、六〇九円となるのにかかわらず、本件催告においてなした控訴人の請求額は、元金合計四〇〇、〇〇〇円、及び、これに対する同年八月分ないし一一月分までの前記約定利息ならびに損害金のほか公正証書作成費用、不支払によつて生じた一切の手続費用までも含むもので、明かに過大請求として無効である。

二、仮に、本件催告及び条件付予約完結の意思表示がそれ自体有効であるとしても、その基礎たる本件消費貸借契約及び代物弁済予約は、いずれも、被控訴人の窮状を利用して、暴利を得んとする契約であるから、公序良俗違反として無効である。即ち、一ケ月五分というような本件利率は、利息制限法所定利率たる年一割八分の約三・三倍であり、現在のような経済状態の安定した段階においては不相当なものといわねばならず、仮にそうでないとしても、利息の支払を一回でも怠れば期限の利益を喪い、控訴人の一方的な意思表示により本件家屋を控訴人が取得するというような、被控訴人にとつて苛酷極まる内容の契約は、被控訴人の経済的窮迫状態に乗じて締結されたものであるから、本件消費貸借は公序良俗に反し無効であり、仮に、そうでないとしても、本件代物弁済予約は、原審において主張したように本件貸金額と本件家屋の価額及び本件制裁条項との間の不均衡性により、暴利行為として無効である。

三、仮に以上の主張が理由がないとしても、本件家屋敷地の南の部分に増築された木造亜鉛鋼板葺平家建作業場及び居室一棟(建坪約一〇坪、別紙目録(三)の家屋)について、控訴人が明渡を求めることは失当であり、仮に失当でないとしても、控訴人の本件代物弁済完結権の行使、及び、明渡請求権の行使はいずれも原判決事実摘示の通り権利の濫用として許されない。

四、控訴人は本件家屋の所有者、賃貸人として、その表の間の借主訴外寺沢善四郎から、昭和三一年一月一五日以降一ケ月につき金一四、〇〇〇円の割合による賃料を取得しており、同三六年三月一四日までの分として合計金八六八、〇〇〇円を取得しているのであるが、右賃料及びそれ以後の控訴人が得た賃料については、被控訴人は控訴人に対して返還請求をなし得るところ、被控訴人はこれを自働債権として、受働債権たる前記一に主張する通りの本件借受残債務と対当額において相殺する。仮に、本件借受残債務が控訴人主張の通りであるとすれば、右債務と対当額において相殺する(右各相殺の意思表示は、昭和三七年六月二一日の口頭弁論期日に、被控訴人の同年三月一日付準備書面を陳述することによつてなされた。)。」と述べ、

証拠として、(後略)

理由

(控訴人の本訴に対する判断)

一、控訴人が被控訴人に対し、(A)、昭和三〇年二月二一日、金三〇〇、〇〇〇円を弁済期を同年一二月三一日、利息を一ケ月金一四、〇〇〇円(この利息については、当審において当事者間に争いがない。)毎月二一日限り翌月分前払、利息の支払を一回でも遅滞したときは期限の利益を失う等の約定で貸与し、右債権を担保するため、被控訴人所有にかかる別紙目録(一)記載二戸建建物の西側一戸(同目録(三)記載の附属建物を含む。以下本件家屋という。)につき抵当権を設定すると同時に、被控訴人において右債務を履行しないときは、本件家屋を代物弁済として取得し得る旨の停止条件付代物弁済予約をしたが、右二戸建々物の内本件家屋のみが被控訴人の所有であるにもかかわらず、登記簿上被控訴人が二戸建建物全部を訴外山口政雄と持分をそれぞれ二分の一と定めて共有しているように登記されていたところから、これが分筆の上単独所有の登記をしないで、便宜右二分の一の持分について別紙目録(四)記載の所有権移転請求権保全の仮登記をし、(B)、同年三月二三日、更に金一〇〇、〇〇〇円を、弁済期を同年一二月三一日、利息は一ケ月五分、毎月二一日限り翌月分前払、利息の支払を一回でも遅滞したときは期限の利益を失う等の約定で貸与し、ついで同年六月二三日、右二口の貸金債権についての約旨を確認する意味で、抵当権設定金銭借用公正証書を作成し、弁済期を二口共同年一二月末日と定め、被控訴人において弁済期に弁済しないとき、若しくは、利息の支払を遅滞したことにより期限の利益を失うに至つたときは、控訴人の代物弁済予約完結の意思表示により、前示(A)(B)の貸金元金合計金四〇〇、〇〇〇円、及びこれに対する遅延利息ならびに損害金の支払に代えて本件家屋の所有権を控訴人に譲渡し、本件家屋を控訴人に引渡す等の約定をした事実についての当裁判所の判断は、原判決理由(一、(一)(二))に説示するところと同一(中略)であるから、ここにこれを引用する。

二、よつて、控訴人のなした代物弁済予約完結の意思表示及び本訴明渡請求の適否について考えてみる。

(一)、控訴人が、被控訴人に対し、前示(A)の貸金三〇〇、〇〇〇円を貸与する際一ケ月分う約定利息金一四、〇〇〇円を天引し、(B)の貸金一〇〇、〇〇〇円を貸与する際一ケ月分の約定利息金五、〇〇〇円を天引したこと、右天引利息を含めて被控訴人が昭和三〇年二月二一日から同年八月一六日までの間に、約定利息として原判決末尾添付計算表記載の通り合計金一〇〇、〇〇〇円を支払つたが、同年八月分の約定利息の一部及び同年九月分以降の約定利息を支払わなかつたことは、いずれも弁論の全趣旨によつて明かであり、控訴人が、同年一〇月二三日附内容証明郵便をもつて、被控訴人に対し、(A)(B)の貸金合計金四〇〇、〇〇〇円、及び、これに対する同年八月分ないし一一月分の(約定)利息ならびに損害金、公正証書作成費用、不払により生じた一切の手続費用を、同年一一月二〇日午後零時までに支払うべく、これが支払のないときは、本件家屋の所有権移転の本登記をして本件家屋を明渡して貰いたい旨の意思表示をしたことは、成立に争いのない甲第二号証によつて認められ、右郵便が同年一〇月二四日被控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。

(二)、よつて、先ず本件貸金元利金の弁済関係について判断する。

(1)、(A)の貸金三〇〇、〇〇〇円の天引利息金一四、〇〇〇円の充当関係。

天引利息額が、債務者の受領額を元本として利息制限法第一条所定の利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分は元本の支払に充てたものとみなすべきことは同法第二条に規定するところであり、右超過部分をもつて支払に充てられるべき元本とは、債務者の受領額を指すのではなく、いわゆる名目元本を指すものと解すべきである(従つて、この点についての被控訴人の見解は採用し難い。)から、右天引利息金の内元金の支払に充てられる額は、左記算式により金九、七一〇円となり、(A)貸金の次の利息支払期、即ち、昭和三〇年三月二一日における元本は金二九〇、二九〇円となる。

300,000円−14,000円=286,000円……受領額

286,000円×0.18÷12=4,290円……利息制限法定利息

14,000円−4.290=9,710円……元本の支払に充てらるべき超過利息

300,000円−9.710円=290,290円……残存元本

(2)、(B)の貸金一〇〇、〇〇〇円の天引利息金五、〇〇〇の充当関係。

右(1)と同様の理由と左記算式により、右天引利息金の内元本の支払に充てられる額は金三、四一七円となり、(B)貸金の次の利息支払期、即ち、同年四月二一日における元本は金九六、五八三円となる。

100,000円−5,000円=95,000円……受領額

95,000円×0.2÷12=1,583円……利息制限法所定利息

5,000円−1,583円=3.417円……元本の支払に充てられるべき超過利息

100,000円−3,417円=96,583円……残存元本

(3) 次に、その後支払つた利息金の充当関係について考えてみる。

利息制限法所定の利率を超過して約定された利息については、右超過部分が無効とされることは同法第一条に明規するところであるが、債務者が右超過部分を任意支払つたときはこれが返還を請求することができないことも同条第二項の規定によつて明かであり、従つて、これが元本の支払に充てられるものでないことも明かなところである。しかしながら、天引利息の内同法所定の利率を超過した部分が元本の支払に充てられたものとみなされ、従つて元本が滅少しているのにかかわらず、債務者において依然として当初の元本(名目元本)が存在するものと考え、名目元本を基礎とし算出された約定利息を任意支払つた場合においては、支払額の内、名目元本と実在元本との差額に対する利息分は元本の弁済に充てられたものと解すべく、この場合数口の貸金が存するときは、その内債務者によつて弁済することにつき最も有利な貸金元本の弁済に充てられたものと解すべきである。

これを本件について考えてみるに、前示天引利息合計一九、〇〇〇円以外に、被控訴人が任意に支払つた別表弁済日時及び弁済額欄記載の利息金(但し、昭和三〇年三月二六日支払つた金一九、〇〇〇円の内金五、〇〇〇円は前示(B)貸金の天引利息であることは弁論の全趣旨からみて明かであり、右金額が天引利息以外の利息として支払われたものとして計算している被控訴人の主張は誤解によるものと認められる。)の内、当初の名目貸金元本と残存元本額との差額――不存在の元本――に対する部分は残存元本の弁済に充てたものとみなされるが、残存元本に対する部分は利息制限法超過部分と雖も元本の弁済に充てたといえないことは前説示の理由により明かであり、又本件においては、債務者たる被控訴人にとつて約定利率の高額な(B)貸金元本の弁済に充てることが有利であることが明かであるから、不存在の元本に対する利息として支払われた分は(B)貸金の元本の弁済に充てられたといわねばならないことも前説示の理由によつて明かなところである。

よつて、これを本件支払利息金についてあてはめてみると別表中当裁判所の認定欄記載の算式により、昭和三〇年八月一六日現在における(A)貸金元本は金二八九、八三八円、(B)貸金元本は金九五、二二九円、合計金三八五、〇六七円となり、同年八月分(同年七月二一日に支払うべきもの)の未払約定利息は金八、七六六円、同年九月分(同年八月二一日支払うべきもの)以降の一ケ月分約定利息は貸金の分が金一三、五二七円、(B)貸金の分が金四、七六一円、合計金一八、二八八円となり、又、利息制限法所定の利率即ち(A)貸金については年一割八分、(B)貸金については年二割の利率によつて計算した利息は、同欄最下段の算式により同年八月分以降一ケ月合計金五、九三五円となることが計算上明かであるところ、右八月分の約定利息は一部未払になつているが、右法定利息金五、九三五円を超えた金一〇、〇〇〇円が支払われているのであるから、控訴人には同月分の未払利息を請求し得る権利なく、結局、控訴人は本件催告当時被控訴人に対し、(A)(B)元金合計金三八五、〇八六円、及びこれに対する同年九月分ないし一一月分の利息金(控訴人は右催告まで元金及び利息の支払を猶予していたことが弁論の全趣旨によつて窺われる。)として一ケ月金五、九三五円の割合による金員、以上元利合計金四〇二、八九一円の請求権を有していたものといわねばならない。

(三)、本件催告の効力。

ところが、控訴人が本件催告において請求した金額は元金四〇〇、〇〇〇円及び約定利息計金六六、〇〇〇円(八月分残額九、〇〇〇円、九月ないし一一月分五七、〇〇〇円。)、以上元利合計金四六六、〇〇〇円であつて、右は実在債権額に比して金六三、一〇九円過大なものであるのみならず、右のほか前示の通り金額を明示していない手続費用等をも請求しているのであるから、本件催告が過大催告であることは明かであるけれども、過大催告がなされたからといつて直ちにその催告を全部無効と解すべきではなく、催告金額が実在債権額より著しく過大であつて、これを有効と認めた場合には債務者にとつて苛酷に過きるというような程度である場合は格別、それに至らない場合には、催告中過大額についての部分は無効とすべきも、適正債権額の範囲内においては催告としての効力を有するものと解すべきであるところ、本件催告は、未だこれを全部無効とする程著しく過大なものでもなく、又実在債権額の範囲内において有効と認めても被控訴人にとつて苛酷に過ぎるものとも認め難いところであるから、前示実在債権額についての催告として、その効力を有するといわねばならない。

(四)、そうすると、本件催告期限たる同年一一月二〇日までに、被控訴人において、控訴人に対し、前示実在債権額を提供、ないし、弁済供託したことについて主張立証のない本件においては、右期限の経過と同時に本件代物弁済予約が完結され、同月二一日以降控訴人が本件家屋を所有するに至つたものというべく、被控訴人は控訴人に対し、本件家屋を明渡す義務を負うに至つたものといわねばならない。

(五)  被控訴人は、本件消費貸借及び代物弁済予約は、控訴人が被控訴人の窮状を利用し、月五分の高利を取り、しかもこれが支払を一回でも怠つたときは期限の利益を失うというような被控訴人にとつて苛酷な条項を押しつけ、契約当時においてさえ金二〇〇万円の価額を有した本件物件を右予約の目的としているのみならず、控訴人は、本件利息金一〇万円を取得したほか本件予約完結後既に本件家屋の一部を他に賃貸して多額の賃料を取得している事情にあり、一方被控訴人は、本件貸金を弁済するため無尽会社に毎月掛金をして低金利の金融を受けるべく努力していた事情にあるのであるから、これら諸般の事実を考え合わせると、右各契約は公序良俗に違反する無効のものというべく、そうでなくても、本件予約完結権ないし本件家屋明渡請求権の行使は権利の濫用として許されないと抗争するけれども、本件契約当時の本件家屋の価額が被控訴人主張のような価額であるという原審ならびに当審における被控訴人本人尋問の結果は、成立に争いのない甲第一〇号証、鑑定人福田弥平の鑑定、ならびに、原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果に照して措信することができず、他にこれを認めるに足る証拠がなく、その余の被控訴人主張の事実をもつて、未だ本件契約を公序良俗違反とし、又本件予約完結権ないし本件家屋明渡請求権の行使を目して権利の濫用とすることができないから、被控訴人の右抗弁は理由がない。

(六)、被控訴人は、控訴人が同三一年一月一五日以降、本件家屋の表の間賃借人たる訴外寺沢善四郎から賃断を受領しており、被控訴人は控訴人に対し右受領賃料額返還請求権を有するからこれを自働債権として本件借受金債務と対当額で相殺すると抗争するけれども、右日時以後控訴人が本件家屋賃借人から賃料を受領し得ること、ならびに、被控訴人が控訴人に対しこれが支払請求権を有するものでないことは、もはや多言を要しないところであるから、右抗弁はそれ自体理由がない。

三、控訴人の代位弁済金及び不当利得金の請求について。

控訴人が本件代物弁済予約を完結して本件家屋所有権を取得した後、同三〇年一一月二四日、別紙目録(五)記載の所有権取得本登記をした事実は当事者間に争いがないところ、右登記当時、

(一)、被控訴人が本件家屋敷地の地代を少くとも金三、七七五円延滞していたので、控訴人が被控訴人に代つて地主に対しこれを弁済したことは、原審における当事者各本人尋問の結果(第一二回)によつて認められるところであるから、控訴人は民法第五〇〇条により被控訴人に対し、右金員を請求し得るものというべきであり、

(二)、被控訴人が、本件家屋の内階下店舗約五坪と二階部分全部を被控訴人から賃借して喫茶店を営んでいた訴外万納寺武重から、同三〇年七月一五日より同三一年一月一四日までの一ケ月金一四、〇〇〇円の割合による賃料の前払を受けていたことが、原審証人(省略)の証言、及び、前掲当事者各本人尋問の結果によつて認められ、右認定に反する原審における被控訴人本人第一回尋問の結果の一部は信用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。そうすると、被控訴人は、右前受賃料の内、控訴人が本件家屋所有権を取得した後である前示本登記の日以後の賃料を法律上の原因なくして利得しているものとして、これを控訴人に支払う義務があるというべく、その金額は、金二三、五八九円であることは計算上明かである(控訴人は金二三、三二〇円と主張しているが計算違いによると認められる。)

(三)、してみると、控訴人の被控訴人に対する代位弁済金三、七七五円及び不当利得金二三、三二〇円、合計金二七、〇九五円の支払請求も正当であるといわねばならない。

(被控訴人の反訴に対する判断。)

本訴について判断した通り、本件家屋は控訴人のなした代物弁済予約完結の意思表示により既に控訴人の所有に帰したものであるから、右所有権が今なお被控訴人に属することを前提とする反訴請求が失当であることはいうまでもない。

よつて、以上の判断に反する原判決は失当で本件控訴は理由があるから原判決を取消し控訴人の本訴請求をすべて正当として認容し、被控訴人の反訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条を、家屋明渡ならびに金員支払部分に対する仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 下 出 義 明

裁判官亀井左取は転任のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 小野田 常太郎

目録および弁済充当関係計算表<省略>

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